BSE緊急対策「耳標による牛の個体識別・安心安全な牛肉を食卓へ」
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参考資料一覧
「なぜ、個体識別なのか?」

92年ぶりの「口蹄疫」の発生にくわえ、2001年日本で初めてのBSE(牛海綿状症候群)が確認されたことにより、牛肉の安全性に関する消費者の関心は高まっている。
 
そこで、牛の生産情報が追跡できるような仕組みを作り、問題が発生したときに的確に対応できる体制を通じて、良質な畜産物と共に消費者に安心を届けることを、牛肉に携わる関係者に期待されている。
 
生産情報を透明化し、追跡調査を可能にし、安心して牛肉を食べてもらうシステムが必要になったのである。
 
個体識別番号は国際基準規格(ISO)付番体系にもとづく、10桁番号で表示される。
牛1頭ごとに、重複することの無い生涯唯一の番号で管理することにより、消費者に「トレーサビリテイー」を確保することで、牛肉の安全性の保証を行うシステムである。(トレーとは「追跡」、サビリテイとは「可能性」の意味で、「農場から食卓までの生産流通履歴を追跡する仕組み」、一般にはISO8402において、「記録された証明に基づいて、商品の履歴と用途または一を検索する能力」とされている。)

「個体識別とは」

一頭の牛を生涯唯一の番号で識別・管理するシステム。(表@参照)このシステムを使えば、

1.BSEばかりでなく、その他の伝染病発生時に瞬時に牛の移動状況が分かり、迅速な防疫対策を講じることが出来る。

2. 出生までさかのぼって生産情報を提供する基盤が整備されるので消費者に安心して食べてもらうことが出来る。

3. 個体識別番号を使えば、経営内で個体の取り違えが無くなり、血統や枝肉情報などいろいろな取り違えが無くなり、血統や枝肉情報などいろいろな情報を個体識別番号をキーにして取り出し、連結して分析することができるので、高度な経営判断に役立つ。

4.現在は、それぞれの農家や団体が独自の個体番号や「耳標」を使って一頭の牛を管理していますが、「個体識別システム」では番号を一本化し、すべての用途でこれを利用することになる。

5.全国データーベースには、一頭ごとに性別、生年月日、出生地、所在地などの基礎情報(戸籍や住民票のような情報)を蓄積し、関係者はこれらの情報を共有して使う。

これらにより、表Aにあるような効果が現れるのである。
・10桁番号と、そのバーコードは、「耳標」に印刷されており、牛の両耳に装着する。
・14年3月末までに、全国453万頭の牛に装着し、バーコードによる管理システムが開始されることになる。
・出生・移動は農家から報告し、食肉処理場でと畜までの管理を行う。
・出生時の報告項目は6つで、
    農場番号
    生年月日
    本牛固体識別番号
    母牛固体識別番号
    性別
    毛色
である。(出世以後3日以内に提出義務)

これにより、14年4月1日からは、食肉処理場までの、追跡調査が可能となった。

「耳標」による認識番号はこの食肉処理場までしか付いてまわらない。

それ以降、加工 ・販売の段階での管理・利用方法については4月以降の課題として4月から検討に入ることになる。
しかし、「トレーサビリテイ」を確立して安心して牛肉を食べてもらうシステムを流通サイドで構築することは緊急の課題である。

「誰が何をするか?」

牛肉のトレイサビリテイーには、生産段階では、牛の証明と登録のシステムの構築が、流通段階では牛肉の表示システムが不可欠とされ、この2つが用件となっている。
 
疫学的対応措置だけでは安心を得られない消費者に対してこうした経路の透明性の確保と予防学的措置によって初めて信頼を確保できるのである。

農林水産省の生産局が取り組むのはEU並みに耳標を装填する「牛の総番号制」で、データーベース化により管理する。

1.都道府県は「地方協議会」を立ち上げ、地域の実地体制を固める。
2.都道府県は地域内の全牛飼養農家のリスト(農家マスター)及び耳標装着計画を作成する。
3.牛飼養農家は都道府県の指導の下、農協等の協力を得ながら、すべての牛に耳標をつけ、生年月日等の基礎情報を全国データーベースに報告する。
4.牛飼養農家は農協等の協力を得ながら、牛を出荷した時や導入したときには全国データーベースに報告する。

最大のメリットは、「食肉流通との連携で、生産者の顔のみえる牛肉として付加価値が高まり、消費者の安心・安全を確保できる」ことにある。
 さらに、「消費者の要望である牛の来歴や個体確認が必要なときに提供できるシステム」が確立できることになる。

農水省総合食料局が取り組んでいる生産から流通までのトレイサビリテイーは「安心安全情報提供高度化事業」で、
1. 食品の生産から消費に至る一貫した安全性の確保。
2. 多様な消費者のニーズに対応した適切な情報の提供。
3. 消費者の合理的な選択に資する。
4. 食品流通の広域化や食サービスの高度化で、いったん食中毒が発生すると原因および汚染食品の流通経路の特定に時間を要す。この間の消費者の不安を抑え、風評被害による食料消費の減退を回避する。
まどが、主な趣旨である。

事業内容は、
1. 食品履歴情報遡及システム開発・普及事業
2. 消費者学習情報支援システム確立事業
などで、牛などの情報をデーターベース化し消費者がインターネット上で自由に情報検索が出来るシステムの構築にある。

「ごまかせない表示システム」

全農も「安心安全システム」と合わせて、出荷牛の「生産履歴書」の提供システムを立ち上げるなど、牛のトレイサビリテイーは着実に実地に移され始めている。
 
そこで、専門家の間で考えられているのが表Bのような「耳標番号」を部分肉になった後もシールに印字して流通・小売り段階まで伝えるシステムである。
 
しかも、インターネットで消費者が検索できるようにする。
 
食肉処理場が処理年月日などを示す証明書を出しているが、背割りして半身にした「枝肉」ひとかたまりに1枚しか出ない。
 
枝肉は流通段階で切り分けられ部分肉になるが、その段階で牛の素性を示す資料は無くなる。
 
ニセ表示はそのような隙をついて出たものだ。
 
「番号」は産地や処理日など無関係に割り振られる。たとえシールを偽造しても本物の番号は分からないので、ネットで検索した段階でニセ物と分かってしまうのである。

「欧州のトレーサビリテイー」

BSE多発地域のヨーロッパでも「牛肉は安全なのか?」と消費者の不安は広がり、牛肉の消費量は激減したが、これを救ったのは食品の安全性確保を目的とした「トレーサビリテイー」の確立だった。

「番号」によるデーター管理はオランダやフランス、デンマークでは、70年代から採用されており、EU加盟国全体としても98年に導入が義務化されている。 (表C参照)
 
加盟国の農家は耳標を牛に付け、母親の番号なども中央のデーターベースに報告。食肉処理場は処理情報を伝えることになっている。
 
市場に出回った際も、牛の素性をたどれる表示義務がある。
 
フランスなどは、ひき肉などの複数の牛の肉が混じる場合でも、少なくとも産地が同じ3頭分の牛までたどれるラベリング制度が確立されている。
 
2000年秋にBSE感染牛の肉が市場に出回った、と言うことを政府が発表し一大パニックに陥ったフランスでは、市内の地下鉄の駅構内やビルの壁面に大きな牛肉の写真と「国産は安全です」とのポスターが数多く掲載されている。
また、量販店では、牛肉ブロックには牛の出生地、肥育地、と畜場番号、処理施設番号、のシールが貼られ、牛の品種の写真も掲載されている。

農場から食卓までの追跡可能をフランスは確立しているのだ。
こうした取り組みにより、フランス農務省は牛肉の安全性の確保と消費者の信頼回復に努めた。

この結果、当初の牛肉消費の50%くらいの減少が現在では5〜10%位の減少まで戻ってきている。これは関係者が一丸となって牛肉の消費拡大に努めた結果である。
日本も消費者の信頼回復のために「トレーサビリテイー」システムを1日も早く確立しなくてはならない。