7月から8月に売込むこの商品
【イベント・季節からみる精肉】
7月は本格的な夏の到来とともに、アウトドアや家庭内での焼肉需要がピークを迎える時期である。夏休みに入る学生もわくわくするような商品提案もしていきたい。
2025年7月の祝日は、7月21日(月)の「海の日」。土日と合わせた3連休を活かして、バーベキュー用の焼肉商材、焼肉セットやジャンボパックなどのまとめ買い需要が高まることが予想される。特に暑さが本格化する7月は、エアコンの冷房下で楽しむ「室内焼肉」や「スタミナ系炒め物メニュー」の訴求も有効となる。また、学生の夏休みが始まることで、ファミリー型のメニュー提案も重要となる。豚・鶏を中心としたリーズナブルな商品と、牛肉の希少部位の組み合わせ展開が鍵となる。また、ラム肉なども健康志向の強い女性からの支持も強いため、展開を行なうと良い。
8月は、1年の中でも最大級の繁忙期「お盆」が控えている。帰省や親戚の集まりに対応した“ハレの日メニュー”が求められる。特に2025年のお盆期間は曜日まわりから、短い連休が2回来るパターンと考えられる。そのため、比較的地方都市は帰省の期間は短く短期決戦。その代わり都心部は、例年よりも客数が増える傾向になると考えられる。
国産黒毛和牛や、銘柄豚、銘柄鶏などの価値ある商品を提案しやすい時期でもあり、精肉売場としては積極的な売上確保を目指したいタイミングである。8月後半になると夏バテによる食欲低下も見込まれ、さっぱり系の「豚冷しゃぶ」、簡単に作れる「ポークジンジャーステーキ」「ゆずこしょう焼き」など、食べやすさ・調理の簡便性を意識したメニュー提案も併せて展開する。
気温面では、東京の2024年7月平均気温は28.7度、8月は29.0度と高温傾向が続く。一部高温になりやすい地域では40度近くまで気温が上昇することもしばしば出てきているため、夏だからと言ってアウトドアを行なうという固定概念は捨てた方が良い場合もある。また、外気温が高温であることからも、熱中症対策や食中毒防止するため、衛生管理・温度管理の強化は必須となる。作業時間の短縮、作業場に商品を放置することのないように徹底したい。
また、円安の影響による輸入肉の価格上昇は継続する可能性が高く、売価とボリュームのバランスを重視した商品計画が求められる。7月は「焼肉需要の最大化」、8月は「お盆を軸としたハレの日訴求+夏バテ対策」の両輪で、売場提案を構築していくことが重要となる。
【7月に使える焼肉提案】

輸入牛バラを使用して、焼肉商材を拡販する。関税の影響で納品価格が大きく変わるため、輸入牛の価格には十分注意する必要がある。国産牛の価格と大きく開かない場合は、国産牛での展開も視野に入れながらグレードや産地を決定する。
暑さが本格化する7月、スタミナをつける焼肉メニューの需要が高まる。米国産牛バラは、適度な脂と濃厚な旨味が特徴で、焼くだけでしっかり満足感が得られる定番商材。アンガスなどの品種にもこだわるとさらに良い。豪州の場合は、米国よりもややグラス臭が残っていたりするため、おすすめは「にんにく味噌ダレ焼肉」。味噌ベースの濃厚なタレににんにくを効かせ、家庭でもフライパンで香ばしく焼き上げれば、ご飯がすすむメイン料理となる。夏野菜を一緒に炒めることで彩りもよく、バランスの良い献立提案になる。もみだれでたれ漬け商品として商品化すれば、即調理可能なタイパ商品として訴求できる。刻みネギやごまをかけるだけでも鮮度感がでるため、たれ漬け商品にも気を遣いながら丁寧な商品化を心がける。バーベキュー用としてはもちろん、平日の晩ごはんにも使える「焼くだけ肉」としての訴求で売場に厚みをもたせたい。

豪州産ラムショルダーを焼肉用としても展開する。ジンギスカン用にスライスして商品化するのが一般的であるが、肩肉の中でもミスジや肩サンカク部分など、牛肉でも焼肉として活用している部分はラム肉も焼肉としても使用出来るため、この部分を焼肉用に商品化すると良い。ラム肉の焼肉用は、肩ロースなどを単品で納品しなくても、商品を作ることが出来るので、トライしてみてもらいたい。
ラム肉は、注目が高まりつつあるヘルシー志向の中で、鉄分やタンパク質が豊富な食材として注目されている。豪州産ラム肩はさっぱりした味わいで、夏にぴったりの「レモンハーブ焼き」が特におすすめである。ジンギスカン用のたれで食べるだけでなく、オリーブオイル、レモン汁、ローズマリー、タイムなどで漬け込んだラムは、焼くだけで爽やかで上品な風味に仕上がる。このようなレシピをコト販促することがポイントとなる。クセが少なく食べやすい部位を使用することで、ラム初心者も食べやすく、女性やシニア層にも広く提案できる。スキレットやホットプレートを使ったキャンプ風演出も販促ポイントとなる。調味済みで展開すれば売場の即戦力商品としても期待できる。健康・おしゃれ・簡単の三拍子を打ち出して売上強化を図りたい。
【8月の夏バテ予防提案】

国産豚ロースならではの商品化として、ロースのリブ側のカブリ、しっかりした甘みのある脂肪がリブロース部分にはついている。この部分を使用した、豚リブロースステーキの商品化を行なう。厚みを15mm~20mmでカットすると、ロース1本から7~8枚程度しか商品化できない希少商品となる。
夏バテしやすい8月には、食欲を刺激する香味系のメニューが好まれる。国産銘柄豚のリブロースは、厚みのあるステーキに最適な部位。おすすめは「ジンジャーポークステーキ」。プレーンで販売する商品の他に、生姜焼きのたれを揉み込んだタレ漬け商品も販売する。家庭でも、すりおろし生姜と醤油、みりん、にんにくを使った特製ダレを作ってオリジナルのジンジャーステーキを作る提案も面白い。少しつけ込めば、ワンパンメニューとして主婦層や単身世帯にも訴求できる。

国産若鶏を使用したねぎま串を拡販する。アウトドアでも活用できるが、フライパンや魚焼きグリルでも調理が出来る商品である。生から焼き上げると、塩だけで食べても想像以上に美味しい焼鳥が食べられる。アウトパックで仕入れられない場合は、ぜひ店内加工でも製造してもらいたい。生の焼鳥のベネフィットは、家庭で串刺しなどの手間を省いた台所のオペレーションを楽にする部分である。
夏の晩酌需要や屋内調理のニーズが高まる8月に、焼鳥を販売することで、美味しい商品が精肉にある事が認知される。フライパンで焼くだけで美味しい焼鳥が食べられる一手間をかける程度は誰しもが出来る行動である。焼鳥の味付けでは、塩や焼鳥のタレなどが一般的であるが、 “ゆずこしょう”をつけたり、つくねに卵黄をつけて食べたりする居酒屋スタイルも、せっかく美味しい焼鳥を作るのであれば提案したい。ゆずこしょうは、さっぱり感とピリッとした刺激が加わり、暑い時期でも食欲をそそる一品になる。
関連販売では、塩やコショウ、七味、焼鳥のたれの他に、柚子胡椒、おろしぽん酢、明太マヨなども品揃えすると、居酒屋を彷彿させて購買行動が加速する。
焼成済みの焼鳥の惣菜販売も有効であるので、併せて販売すると良い。お酒との相性も良く、家飲み・おつまみ需要に加え、串を抜くとお弁当用の主菜としても使える。夏の夕食・おつまみにちょうど良い、手軽で本格的な味わいを打ち出したい。
加工肉を活用したメニューの展開
家庭でのタイパ志向が一層高まる中、精肉売場でも「焼かなくてもすぐ食べられる」商品群の取り扱いが拡大している。特に注目されるのが、加熱済み・味付け済みの加工肉を使った簡単調理メニューの提案である。ミート惣菜で店内加工した商品だけでなく、メーカーが発売する商品なども活用しながら提案を強化し売り上げ拡大を図りたい。
加工肉では、定番の「サラダチキン」を活用したり、近年注目を集め始めている「プルドビーフ」や「プルドポーク」を活用する。

プルドビーフは、アメリカ南部BBQ料理として知られるほぐし牛肉で、塊肉をじっくり低温で長時間かけて火入れし、柔らかい食感と濃厚なタレ味が特徴である。最近では、豚肉で作るプルドポークなども家庭料理で登場している。プルドビーフやプルドポークは、サンドイッチやハンバーガーなど様々な料理に活用出来る。部位としては、肩やモモなどの筋肉が発達している部位がよく使用される。硬いイメージの部位が柔らかく食べやすくなる。また、安く販売していた部位を付加価値をつけて販売していくことに、今後の活路を見いだしていきたい。

夏休みに入るタイミングから、小中学生をはじめ家にいる時間が長くなるため、“おうちバーガー”メニューの展開で、楽しい食提案を提供していく。精肉のメニュー提案では、肉単体のメインメニューを考えがちであるが、日常の食事の中で、全体のバランスも考えながらメニュー提案を行なうことで、日常にお肉が浸透する。
健康志向層に向けた「サラダチキンバーガー」の提案も有効である。サラダチキンをバーガーに挟み、和風・イタリアン・アジアンなどのテイスト別に、タレなどでアレンジを加えることで、幅広い年代に対応可能となる。カフェ風のメニュー写真や、レンジ調理・トーストで完成する「映える食卓」提案をセットで展開することで、若年層から主婦層まで訴求力が高まる。
これらの商品は、週末のランチや平日夜の“あと一品”としても使いやすく、冷蔵庫に常備できる利便性も強み。精肉売場においては、加熱済み加工肉の定番化を狙うことで、家庭内における「肉の使い方」のバリエーションを広げ、日常の売上底上げにもつなげていきたい。今後はサンドイッチ用パンとのクロス販売や、惣菜売場との連携強化も視野に、部門横断型の売場づくりを推進していくことがポイントである。
関税による精肉の影響
米国の関税に関する大統領の発表は、ニュースを見ていなくても耳に挟むほど大きな話になっていることは誰しもご存じの通りである。日に日に状況は変化しており、世界の環境はめまぐるしく変わっているため、ニュースを細かく確認することが重要である。
米国は、輸入する商品に対して関税をかけると発信をしているわけであるが、例えば、アメリカが輸入している牛肉では、昨年、豪州やカナダ、ブラジルなどが主力となっており、輸入量は年々増加している中での関税の話である。米国の牛肉輸入量増加は、国内生産量の減少に伴うもので、必然的に輸入に頼らざるを得ない環境である。今回、関税が国によって変わると発表しているので、高くのしかかる国が偏れば、それ以外の国の輸入量が増えることになる。特に米国としてはカナダやメキシコを注視する必要があり、この国の関税が大幅に増えると、豪州やブラジルの輸入量が必然的に増える可能性がある。米国は肥育もと牛や肥育牛などの生体牛をカナダ、メキシコから輸入している。2024年には年間204万頭の生体牛を輸入しているが、これは米国の牛と畜頭数の6%に相当する。米国の関税措置により、生体牛の輸入頭数が減少することによる影響は少なくても、私たちの輸入牛にも影響が出そうということは言うまでもない。

同様に、豚肉に関しても影響が大きく出る可能性があり、米国の主な豚肉輸入先はカナダが6割以上を占める。また、米国からは肥育もと豚や肥育豚などの生体豚を年間676万頭輸入(24年実績)しているが、これは米国の豚と畜頭数の5%に相当することから、関税措置は米国内の豚肉生産にも影響を与えるとみられている。
以上のことからも、今年の輸入牛肉や豚肉の相関図は大きく昨年とは変わる可能性があるため、量販店においても仕入れの価格が大きく変化することが予想される。また、報復関税などを発表している国もあるため、今後も注視しなくてはならない。畜産国の米国、豪州、ブラジルなど、日本にも大きく影響する国の畜肉に関する動向でもある関税であるため、対岸の火事ではなく、間接的にお肉が世界中から購入できなくなる可能性があると思いながら業務を行ってもらいたい。
(参考文献)農畜産業振興機構:米国食肉業界、関税措置による食肉輸出への影響を懸念(米国)(令和7年3月25日発)
持続可能な精肉運営を目指す
米国の関税による世界の物流の流れの変化、仕入れ可能国の畜肉の世界各国の取り合いなど、世界の環境がさらにもう一段変わろうとしている。その中で、今までと同じように、昨年ベースで売り上げと商品、利益を作るには、仕入れを工夫したり、安定して仕入れができる国産に切り替えたり、様々な工夫が必要となる。仕入れのリスクヘッジは、常にバイヤーが考えておかなくてはならない案件であるが、銘柄やお肉のこだわりだけで、一つの仕入れ先に絞っていると、足をすくわれる時代になってきているともいえる。
持続可能な精肉、量販店、流通を考えると、昨今問題となっている、日本の物流問題だけでなく、仕入れ、輸入、納品価格も今年は課題になりそうな環境となっている。今までのように、ただの安売りでものを売っていた時代とは異なるものの見方をする必要があると考えてもらいたい。
無駄に海外からものを動かすと関税がかかり、量を動かすとトラックで運べなくなる。今までの流通ではなかった課題が浮上してきており、精肉でも考えなければならない大きな社会問題を全員で今後も考えていきたい。