「輸入肉マーケットの動向2024」

輸入肉は日本市場だけで成り立ってはいない。意外とこの部分は仕入れとは関係ないと思っている方も多い。
2022年2月からロシアとウクライナでの紛争が続いているが、この地域で収穫される小麦は世界中に影響が出るほどの量が出回っていた。もちろん小麦は人が食べるパンやパスタにもなるが、家畜の餌にもなるため、家畜の餌が逼迫し価格も高くなる。
昨年は、米国で干ばつがあり、牛肉など家畜の飼養頭数が減っていた。
単にその国の問題で済まされると事は簡単であるが、輸出国である米国や豪州で干ばつがあると、輸入できなくなった国が別の国から畜肉を輸入せざるを得なくなり、必然的に価格が上がる。このように、世界で起こる様々な外部環境が、私たちが輸入する畜肉に大きな影響を与えていると言うことを理解した上で、輸入肉を販売してもらいたい。

まずは、現在日本が置かれている状況を理解してもらいたい。

  1. 円安
    円安は海外から輸入するお肉は、仕入れの原料ベースで同じ価格だったとしても、為替で高くなると言うこと。
  2. 安い日本
    日本は良くも悪くも、物価が世界基準からすると極めて安い。
    実のところ、日本国内だけ見ていると生活は以前から大きくは変わっていないが、世界中の所得は上昇しており、必然的に日本は世界から見ると年々相対的に所得が低い国になってきている。
    そのため、今海外からのインバウンド客が激増し、外国人観光客が観光スポットに行くと必ずいるのである。
  3. 仕入れの買い負け
    日本は以前から定期的に同じような価格で仕入れをして、量販店でも輸入肉を販売している。売価は多少前後することがあっても以前からほとんど変わっていない。
    米国や豪州など、お肉の販売国は高く買ってくれる国に対して商品を供給すれば儲かるため、日本と他国を商売の天秤にかける。
    現在の日本はいかに安く仕入れるかという20年前30年前と同じ感覚で商売をしている。同じ天秤にかけられたとき、日本の競争力はなく、昨年と同じ価格では商品を販売してくれなくなってきている。
  4. 世界中で疾病が蔓延
    韓国まで迫ってきているASF(アフリカ豚熱)は、水際でなんとか国内に入らず保たれている。ご存じの方も多いと思うが、ヨーロッパでもASFが広まっており、いまだ終息のめどが立っていない。
    また、豚肉の消費大国である中国でもASFが広まっているため、世界中で豚肉の引き合いが強い。他国の疾病は、仕入れにも大きくかかわっている。

このように、現時点苦境に立たされている日本の輸入肉であるが、各畜種ごとに、環境が異なるので、次に簡単に2024年の状況についてまとめた。

『輸入牛肉は豪州産がポイント』

米国の肉牛はキャトル・サイクルの縮小期にある中で、23年の干ばつによる影響もあり、昨年よりも2.5%程度飼養頭数が減少している。
牛肉生産量に関しても2.9%減証する見通しであるため、2023年よりも価格は上昇する見込みである。
一方、豪州の肉牛に関しては、牛肉生産量は昨年よりも8%増加する見込みで、輸出量も増加傾向で推移する。
全体としては世界の牛肉輸出量は、米国で減少する一方で、オーストラリアやブラジルで増加するため、微増との予測が出ている。
しかしながら、豪州産牛肉の輸出先は、今まで日本、米国、韓国、中国の4大市場であったが、これらに加えて、東南アジアや中東、アフリカ向けが拡大しており、他国に買い負けしないように日本も競争力のある仕入れをする必要がある。

『輸入豚肉は米国の供給が安定』

2024年の米国産豚肉の生産量は昨年比でも5億7900万ポンド多く、推定される米国産豚肉の輸出量は昨年比3.8%増える見込みである。
供給量が前年を上回るため、豚肉価格が全体的に下落して買いやすくなる可能性が高い。2023年のカットアウト価格(グラフ参照)を見ると、第2四半期の価格が例年になく低いことが分かる。
ただし、世界的には中国やヨーロッパ諸国でASF(アフリカ豚熱)などの影響も続いているため、世界の豚肉生産量全体的にみると減少する可能性がある。

出典:米国食肉輸出連合会「Trader’s Be&Po vol.441」より
https://www.americanmeat.jp/trd/publications/tbp/magazine/441/#contents01_2

『輸入ブロイラーは価格が下がり使いやすく』

(独)農畜産業振興機構(ALIC)による見通しは、ブラジルが鳥インフルエンザの影響から回復したことや、タイ・アメリカは順調に入荷していることから、輸入量は2月が62.7千トン(前年比133.1%)、3月は52.6千トン(前年比110.7%)となっている。
輸入ブロイラーの使用用途で多い外食がインバウンド需要で増加しており引き合いは強くなっていると考えられる。
昨年と比較すると、ブラジル・タイともに価格は下がる見込みで、ブラジル産ブロイラーの入荷も回復する見込みのため、国内市場価格は下落基調となる。

鶏肉及び鶏肉調製品の輸入量

鶏肉及び鶏肉調製品の輸入量
鶏肉及び鶏肉調製品の輸入量

【生活者の購買動向が大きく変化】
2024年の1月は例年に比べると気温が高く、暖冬の影響による鍋物の不振に加え、精肉全般で相場高傾向のため牛肉から豚肉・鶏肉に需要のシフトが起った。
牛肉は、年末商戦ではしゃぶしゃぶ、すき焼き用の和牛は売り上げを確保できたが、それ以外は苦戦した。豚肉は国産、輸入ともに高値の影響を受け伸び悩んだが、相場の安定している鶏肉は好調だった。
ハムやソーセージなどの加工肉は全体的に動きが鈍く、消費者の節約志向の高まりにより、買上点数は減少傾向が続いていると考えられる。

ディスカウントストアや海外からきているホールセラーを覗いてみると、冷凍牛肉や豚肉、輸入ブロイラーは定番商品として扱われており、消費者もためらくことなく大量に商品を購入している。
最近では、円安の影響で、輸入肉の仕入れ価格が高く推移しており、外部環境も少なからず影響しているため、売りにくいという部分があるが、相対的には国産品よりも安価で消費者も購入しやすいのが影響していると言える。
また、冷凍商品に関しても以前に比べると購入するのに抵抗感がなくなっているだけでなく、家庭では冷凍庫でお肉を補完するため、もともと冷凍のお肉を購入するという消費者も少なくない。

揉み込み味付けタイパ飯

今年の夏はエルニーニョ現象の影響で例年よりもさらに熱くなる見通しである。
その中家庭での下ごしらえなど時間の掛かるメニューは懸念されがちである。
そのような消費者の潜在ニーズを捉えて、タイパ飯としても活用出来る味付け肉を拡販していく。

輸入肉を使用するときは、ドリップコントロールの注意が必要となる。
特に冷凍肉を使用するときは、流水解凍をして商品化すると、ドリップが大量に流出してしまうので、緩慢解凍して、できるだけ商品化時点でドリップを拭き取っておく。
また、吸水紙を必要量敷いておくことも忘れずにしたい。最近では、物流倉庫に保管している時点で、電磁波解凍など最新設備で冷凍や解凍を行なうことが出来る施設もある。
店舗で解凍するよりもドリップの流出が格段に少なく、このような技術を使うのも、オペレーション改善の一つとなる。

米国産牛肩ロース切り落しステーキ用ガーリック味(解凍) 198円/100g
米国産牛肩ロース切り落しステーキ用ガーリック味(解凍) 198円/100g

輸入牛肉肩ロース冷凍を活用して量産できるステーキを味付けで訴求する。
オペレーションはディスカウントストアスタイルで、冷凍の肩ロースの汚い部分や外側の骨肌等をトリミングして、スライサーを活用して商品化する。
オペレーションを極力最小限にし、低価格で販売することで、商品回転率を上げる。
冷凍肉は全解凍してしまうとドリップが出るだけで無く、肉質も良くなく商品化も行ないにくい。そのため中心温度をマイナス6度~4度程度まで上昇させた半冷凍の状態でスライスする。
10mm厚でスライスし、ミニステーキ大に大きさを包丁でカット。
タレ漬けして大型盛り付ける。
安価な商品を中小パックで商品化すると、客単価が下落してしまうため、パック単価を下げないように売価にも注意しながら商品化する。
味付けでは、ガーリックステーキ味にする場合は、ニンニクチップを添付し、食欲をかき立てる工夫をする。

米国産豚ロース切り身 にんにく味噌漬け 280円/180g
米国産豚ロース切り身 にんにく味噌漬け 280円/180g

米国産豚ロースを使用して、定番で量産できる味噌漬けを拡販する。
1枚90gでカットして味噌を揉み込み商品化する。味噌は定番の業務用豚みそのタレ以外でも最近人気のにんにく味噌、付加価値の出る西京味噌、金山寺みそなど、品揃えすることで競合とは差別化した商品を作る。カット野菜の仕入れが可能な場合は、白髪ネギやカットネギをトッピングして彩りの強化を図る。
味噌の単価で1枚当たりの重量を調整し、売価が高くなりすぎないようにする。
2枚3枚と大型パック10枚入りの3SKUで展開し、売上確保を狙う。

タイ産若鶏ももチキンステーキ ガーリック&チーズソテー味 98円/100g
タイ産若鶏ももチキンステーキ ガーリック&チーズソテー味 98円/100g

輸入鶏肉は味付け商材の品ぞろえで量販する。
味付け肉では比較的安価に提供できる鶏肉であるため、100gあたり100円未満で提案し安定した売り上げと利益の確保を行う。
安いものを安く売るだけでは、先々も厳しいため、しっかりと利益体制を整えたい。
仕入れやすい産地として、タイ産やブラジル産があるが、いずれも解凍を丁寧に行わなければドリップが大量に出てしまうため、品質が悪くリピートにもつながらなくなってしまう。
緩慢解凍を丁寧に行い、売場でのドリップアウトがないように注意が必要である。
鶏肉は比較的様々な味のバリエーションが出しやすい畜種のため、ガーリック&チーズやバジルオイル、タンドリーチキン味など毎日味変出来るようバリエーションを多品種出すと売り上げにつながる。

豪州産羊肩肉味付け 羊名人スパイス味 480円/200g
豪州産羊肩肉味付け 羊名人スパイス味 480円/200g

豪州産生ラムは肩肉を使用し、スパイス味で提案する。
クミンは羊独特の臭みを軽減してくれるため、羊をよく食べる中国や中東でも使われるスパイス。牛豚鶏の味付け商材にも羊肉を加えて提案する。
品名には、ラムではなく、羊肉、仔羊など漢字で記載することで、日本在住の中国人にも購入してもらえるようにする。
日本には、現在約80万人の中国人が住んでいるため、しっかりと購入してもらえるように工夫する。
商品化では、ラムショルダーの骨肌や残骨の確認をしたのち、2㎝角程度のカレー用のように角切りにして、まんべんなくスパイスを揉み込む。

輸入肉で攻める差別化商品

輸入肉は安価にたれ漬けにして量販することで売り上げを作るというのが定番であるが、商品化を行う際に、この部分はもっと高く売れるのにもったいないと思うことがある。それをしっかりと実現させていく。

米国産アンガス牛バラ焼肉用 398円/100g
米国産アンガス牛バラ焼肉用 398円/100g

ショートプレートをスライスで切り落としや薄切り焼肉にする際に、赤身が分厚く脂肪があまり入っていない部分がある。
この部分を脂肪が多い場所と一緒に販売することで、赤身率が高いように見せるというのが定番の商品化である。
この部分を8㎜厚でスライス。シルバースキンは焼きあがりに固く歯に残るため、隠し包丁を入れる。ロール状に立体的に盛り付け高級感のあるトレーに盛り付けると、安価なショートプレートから高級感のある一品料理に早変わりする。参考トレー:株式会社アクタ ワン折KSN5-14

米国産豚バラ冷しゃぶ用 480円/300g
米国産豚バラ冷しゃぶ用 480円/300g

米国産シートベリーは、スライスしてシステムトレーに並べて量産する。
このいつもの作業の延長線上に、丸皿に冷しゃぶ用として薄切り肉を盛り付けると、新たな手間は削減できる。
豚バラに関しても、牛肉同様脂肪が少ない部分が一部あるため、この部分を価格を少し上げて冷しゃぶ用として提案する。
春夏は冷しゃぶ、蒸ししゃぶ、秋冬はしゃぶしゃぶで訴求する。
輸入豚は作業性を考えて一般的に丸皿に盛り付けることが少ないが、丁寧に仕事をすることでシステムトレーの切り落としやスライスよりも、価格を上げて提案することが出来るので、しっかりと商品作りに価値をつけていくと良い。参考トレー:エフピコMSF-丸250

タイ産若鶏モモ肉焼肉用(解凍) 98円/100g
タイ産若鶏モモ肉焼肉用(解凍) 98円/100g

輸入若鶏は冷凍のまま2kg袋で販売することも多いが、きちんと商品化して付加価値をつけて提案する。冷凍鶏モモ肉を一度解凍し皮面を外側に丸めて再凍結して1cm厚にカットすると、夏場の焼肉需要に対応した鶏肉が完成する。秋冬にも鍋用としても活用出来る商品化である。鶏モモ肉は切り身だと焼いたときに火の通りが難しく、食べたい食材ではあるものの、そういった切り方は難しく、また商品も販売していることが少ないため、諦めている潜在ニーズのある商品である。簡単に冷凍してカットするだけで準備さえしっかりと行なっておけば、商品化は難しくないアイテムである。参考トレー:エフピコ美彩21-18

豪州産羊肉串(肩肉) 580円/80g×5本
豪州産羊肉串(肩肉) 580円/80g×5本

豪州産ラム肉を使用した羊肉串を販売する。
数年前にファミリーレストランでも大ヒットし欠品するほど売れた羊肉串を精肉で販売していく。
ラムショルダーをトリミングした後に、棒状にカットして等間隔に串を刺し、串の間に包丁を入れていけば、一つずつ小さな角切りを串に刺す必要がなくなる。
羊肉串は、脂肪はできるだけ残した状態で商品化する方が、中華料理屋で出てくる羊肉串に近い。焼いて脂肪から余分な脂が出て、赤身部分にほどよく絡み合い、絶妙な焼き上がりになるのは、この脂肪がポイントとなる。
クミンパウダーや羊名人などのスパイスを関連販売させて売場作りを行なう。

今だから売れる商品をトライし続ける

今年注目のアルミトレー販売を紹介する。
かつて20年ほど前までは、アルミ鍋をはじめ、様々な商品がアルミトレーで販売されていたが、電子レンジでの調理が出来ないことから、精肉での扱いは個食鍋に留まっていた。
しかし、アルミトレーも進化しており、今年電子レンジ対応アルミニウムトレーなども展示会などでも出品されはじめ、アルミトレーが再注目されている。通常のアルミトレーはもちろん電子レンジで調理出来ないが、そのようなアルミトレーは今後も販路が広がると考えられる。

タイ産若鶏モモ肉チーズタッカルビ オーブン焼き用 480円/240g
タイ産若鶏モモ肉チーズタッカルビ オーブン焼き用 480円/240g

輸入鶏モモ肉にタッカルビの味付けをして、とろけるチーズをトッピングすれば、チーズタッカルビが完成する。
トレーをアルミトレーにすることで、オーブン調理が出来るようになる。オーブンを使用することが出来れば、フライパンなどの洗い物も減るため、調理も格段に楽になる。
アルミトレー提案は、アウトドアキャンプ飯にもそのまま持って行けるとあって、近年アルミトレーに注目が集まっている。
特に、味付き肉は焦げ付きなどもあり、キャンプギアの清掃が大変なため、アルミトレーの新たな活路として今後は展開を広めていきたい。

過去に販売していて、売れなかった商品やトレー調味料も、今の時代だから提案すれば売れるようなものも少なくない。
現在、管理職など役職に就いているメンバーの過去の失敗体験が、売れない商品とひとくくりに却下されてしまうと、ようやく販売出来るタイミングが来たにも関わらず売れずじまいになってしまう。
スーパーのはやりは20年周期など言われることもあるため、2000年頃に流行した商品、1980年頃に発売していた、当時よく売れていた商品なども、今一度提案してみても面白いと思う。
輸入肉では、当時と為替や環境が大きく異なるが、冷凍カルビやニンニクの芽入りのタレ漬け焼肉、輸入牛サーロインのばら売りなども、形を変えていまによみがえらせるのも、今後の輸入肉の活路を見いだせるかもしれない。特にタレ漬け焼肉は、今回紹介したように、バリエーションも増え、味も本格的になってきている。

現在の環境に合わせた、商品化を提案していくだけで、今の若い世代にも受け入れられるキャンプ飯になったり、「タイパ」を意識した即食、簡便食になるため、安価な商材としての輸入肉の提案だけでなく、コンセプトやターゲットも少し考えながら展開を進めてもらいたい。