ミート惣菜 or グルメレストラン
ここ最近、アメリカのトレンドで、グロサリー(日本では食品雑貨コーナーのことをさすが、もともとは食料品や食料品店の意味)とレストランを掛け合わせた「グローサラント」という言葉がある。
店内で購入した食品をイートインコーナーで食事をしたり、また、スーパーで販売している商品やブランドを使った料理が、併設のレストランで食べることが出来るサービスのことを指す。
日本では最近になって量販店の店内に食事をするイートインスペースなどが出来はじめたことから、このグローサラント化が新しい需要の創造として、食品SMに、徐々に浸透してきている。
マルエツ大久保駅前店
マルエツのグローサラント化はシンプルで、精肉コーナーにミート惣菜を「お肉屋さんのお惣菜」コーナーに充実させ、レジで商品を購入後サッカー台横にあるイートインコーナーで食事をすることが出来るという、一般的なスタイルである。
ほかのスーパーと違う部分は、ミート惣菜を充実させ、単純にローストビーフやチャーシューなどのおつまみ商材というカテゴリからは完全に脱している部分にある。
お肉屋さんの惣菜コーナーを水産と精肉の間に設置し、精肉の客導線トップに持ってきている。
ポイントは、精肉で扱っているブランド肉を使用していることである。
お肉のプロである精肉が、そのブランドに見合った調理方法でミート惣菜を製造し、惣菜コーナーの肉惣菜とは違った美味しい肉惣菜を提案している。
ブランドとしては、優夢牛、仙台牛、みちのく森林鶏、桜もち豚、米の娘ぶたなど牛豚鶏の主力銘柄肉を用意している。
通常パック680円との2SKUで展開している。
ご飯に優夢牛の焼肉が乗っているシンプルな焼肉重であるが、店内加工で味付けされたお肉は濃すぎず食べやすい。牛肉のお重は優夢牛だけでなく、仙台牛 牛めし重780円、398円もあり、価格差をつけてグレードの違う商品展開をミート惣菜の中でも行っている。
国産優夢牛を使用したコロッケ。国産優夢牛をふんだんに使いい、仕上げたコロッケは、ジャガイモのコロッケというよりも、肉が多めに入った肉汁ジューシーなタイプのコロッケである。
イートインで食べやすいように、個包装の紙袋に入っている。惣菜のコロッケとは手間のかけ方が違うのもポイントである。
上カルビ、トモ三角、シンシンの焼肉用の盛り合わせ。サシの入った美味しそうな生肉がミート惣菜の隣のコーナーに陳列していると、一度食べてみたいという気になる。
その一度食べてみたくなるという部分が、グローサラントの相乗効果である。
宮城県産の指定農場で飼育されたみちのく森林鶏ムネ肉を使用したチキンカツは、店内加工の商品。みちのく森林鶏シリーズではチキンステーキ(100g158円)やモモ唐揚げ(100g148円)、おつまみ焼鳥(100g178円)その他にも鶏天なども販売されており、店内加工に費やす時間は、競合他社よりも圧倒的に手間をかけて丁寧に作られている。
以上のように、銘柄肉を中心としたミート惣菜は「お肉屋さんのお惣菜」コーナーで品揃えされ、銘柄肉の説明もしっかり行われている。
一銘柄1アイテムの惣菜というわけでなく、何種類もの品揃えがされていることで、メニューのバリエーションの幅広さもアピールできている。
単純に鶏肉だから唐揚げ、チキンカツという品揃えでは、惣菜部門とやっていることは変わらないが、精肉部門ならではの、チキンステーキ提案や串なしの焼き鳥の品揃えも含め、その銘柄肉にあった商品化を提案している。そのため、どれをとっても美味しく、次はこっちを買ってみようと購買意欲をそそられる。
ミート惣菜のバリエーションとしては、揚げ物(唐揚げ、カツ、コロッケ、メンチカツなど)、米飯(焼肉重など)、グリル(ソテー、焼き鳥など)など多岐にわたっているが、イートインで軽く食べるためのスナック(間食でジャーキーやサラミのように、軽く食べることが出来るもの)などの品揃えを充実させると、より活用頻度が高くなると感じた。
イートインコーナーでは、気軽に食事がすることが出来るように、冷水やお茶の無料の給湯器、また、スムージーなど販売しているため、買い物後の少し休みながら食事をする場所として、気軽に着席が出来る雰囲気がある。
グローサラントの活用は、普段購入する生肉への相乗効果も十分期待でることがメリットである。
お祝いでステーキを食べたい時に、ミート惣菜で食べたことがある優夢牛や仙台牛であれば、お肉を買うときの味への安心感がある。
そのため、ミート惣菜の銘柄と生肉の銘柄が同じであることは極めて重要な要素であり、また同時に銘柄による顧客の囲い込みを行うことが可能となる。
成城石井トリエ調布店
成城石井のグローサラント化は、単純にスーパーが真似をすることはできない。精肉で販売している、和牛バーガーと同じものを、併設のレストラン「SEIJO ISHII STYLE DELI & CAFE」において、ランチやディナーで食べることが出来る。言わずと知れた高級路線のスーパーということで、そのレストランも期待が高い。
ファーストフードのように、最初にメニューを決め、お会計後、テーブルで自分の番号が呼ばれるシステム。水やナイフフォークはセルフサービスで、マスタード、ケチャップ、塩なども完備している。成城石井のスーパーに併設しているもののイートインコーナーのように自由に着席して食べることが難しい。
調査日が週末だったという事もあり、食事をするために並ぶほど満席状態が続いていた。
ハンバーガーとポテト、ミニサラダがセットとなったランチメニュー。黒毛和牛パティは約60g(30g×2枚)で、バンズと比較するとやや小さい感じがある。
トリュフの味が和牛バーガーパティよりも強く出てしまっており、和牛の味を消してしまっているのがもったいないと感じた。
ステーキ・ロッシーニ風のように、ハンバーグステーキにフォアグラが乗ったメニューで、30食限定メニュー。デミグラスソースがたっぷりかかっており、味も濃いめの為、せっかくのフォアグラの存在感がやや消えている感じである。
“「併設のSEIJO ISHII STYLE DELI & CAFE」でこちらの商品を使用しております。”というPOPで、レストランメニューとの連動をつなげる役割を果たしている。
精肉のハンバーグは1枚150gで、レストランとの連動商品として大陳されていた。挽肉は細挽きのため、肉感の残ったパティではない。
サーロインは約130gで焼き上げたお肉をそぎ切りにして提供される。
焼き加減は聞かれなかったが、ミディアムレア程度の火の通り方であった。
カットして提供する場合、特に外国人で赤いお肉が食べることが出来ない人もいるので、注意が必要かもしれない。
平台において有人でばら売りをしていた。
レストランのステーキと同じものを使用しているとの説明。1枚1500円2枚2500円で展開しており、脂肪のトリミング、バラ山のトリミングも強く良心的と感じる。
ばら売りの為、人竹にくるまれ紙に包まれバーコードを貼られる。対面コーナーと同じ形態である。
以上のように、マルエツとは違い、店舗のハード面から完全にレストラン仕様にしたのが成城石井である。レストランのメニューの完成度は高く、通常のショッピングモールのフードコートよりも、さらに洗練されたメニュー提案と商品が提案されている。
食材、メニューどちらをとっても、高級感のある成城石井がしっかりと表現されている。
今回のメニューを見てもわかるように、マルエツのような銘柄訴求を行っていない。
そのため、銘柄による商品の指名買いによる顧客の囲い込みとまではいかない。ただ、成城石井の場合は、成城石井ブランドということで、顧客がいるため、他のスーパーとは少し意味合いが違うかもしれない。
そのため、成城石井スタイルのグローサラントというのは、他のスーパーが真似をしようとしても難しいといえる。
ブランドミート惣菜 vs グルメレストラン
マルエツと成城石井は、それぞれ違ったアプローチでグローサラントに取り組んでいた。
マルエツは、精肉とミート惣菜で、同じ銘柄肉を使用し相乗効果を狙っている。
パック単価が生肉よりも安く、手軽に購入することが出来るミート惣菜で、銘柄肉の味を知ってもらうことが出来る。食べたことのある銘柄肉であれば、生肉でも選択肢として検討されるようになる。
今まで精肉でノンブランドのお肉を選択していた消費者も、銘柄肉を購入する機会が増える。
生肉の銘柄に対するハードルを下げることが、この企画によって出来たのではないかと思う。
成城石井は、同じグローサラントでも、精肉で使用している商品を使った料理をレストランで提供することで、素材に安心感のあるレストランを提案している。
レストランのメニューは成城石井で購入できる商品であるが、集合陳列されているわけではないため、おそらくレストランで食べた消費者が、同じ食材を求めてスーパーで買い物をするというのは少ないと思われる。特に精肉商材に関しては、和牛ステーキなどは価格も高く、相乗効果とは違う価格のハードルが発生してしまう。レストランで提供されている食材に関しては、POPでスーパー店内の商品に設置されているが、それぞれにレシピが付いているわけではないため、レストランメニューの家庭での再現は困難と思われる。
今後、グローサラントに取り組む場合は、まずはマルエツスタイルで、銘柄を使用したミート惣菜を充実させ、精肉との相乗効果を狙うと良い。
銘柄肉を使用したミート惣菜は、メニュー展開を充実させることで効果が増大する。それぞれの銘柄肉に見合った美味しいメニューを提案することも精肉にとっては重要な今後の課題となる。