畜産景況感
【牛肉】
「国産牛肉」に関しては、(独)農畜産業振興機構(ALIC)の需給予測(10月27日公表)では、10月、11月は和牛の頭数は減少。交雑牛、乳牛で出荷頭数の増加が見込まれる。
最近の3か月平均(9~11月)では、国産牛全体の出荷頭数97.5千頭(前年比103.3%)、生産量30.5千㌧(同102.4%)で、前年同期を上回る予測となる。
「輸入牛肉」は、国内需要低下、為替等の影響から大幅に減少している。
特に10月は大きくその影響が出ており、輸入合計;45.2千㌧(前年比81.9%)、チルド;16.5千㌧(同80.5%)だった。
しかし、11月やや円安が落ち着いてきたこともあり、輸入合計;44.9千㌧(前年比105.3%)、チルド;16.7千㌧(同101.6%)、フローズンに関しても同様に推移している。
3か月平均(9~11月)では、輸入合計;47.3千㌧(前年比95.5%)、チルド;17.0千㌧(同83.4%)、フローズン;30.2千㌧(同104.2%)で、まだまだチルドに関しては、前年の推移に達していない。
この環境は、先物の契約が出来ていないということで、輸入量が減り、手当てができていないところは、その手当を国内の現物ですることになる。
輸入量が前年の80%とか90%だと、どうしても数量が手に入らないので、高い価格でも購入しなくてはならないので、現物相場は上がってしまう。
現地相場が高い、為替が円安、ということで、2023年も、チルドビーフの輸入量が前年を割っていくと、国内相場が高止まりになる。
【豚肉】
国産豚肉は、農水省食肉鶏卵課の肉豚生産出荷予測(令和4年10月25日付け)によると、今後5か月間の合計頭数は前年比約97%と前年を下回る予測が出ている。
(独)農畜産業振興機構(ALIC)の需給予測(10月27日公表)によると、チルドに関しては北米の現地価格の継続的な高騰、円安の進行などから、低調な数量が継続すると見込まれている。
直近3か月平均(9~11月)は、輸入合計77.6千㌧(前年比101.0%)、チルド31.7千㌧(同92.3%)、フローズン45.9千㌧(同108.0%)となっている。
フローズンは、引き続き米国やスペインからの数量が増加することが見込まれる。
スーパーで使用されるテーブルミート向けの、チルドポークの輸入が大幅に少ないことが、現物相場の高騰を促すので、チルドビーフと同じく、相場の高止まりを促すことになる。
【鶏肉】
(独)農畜産業振興機構(ALIC)の推計期末在庫では国産25.8千トン(前年比76.5%)、輸入品121.2千トン(同112.7%)と合計で147.1千トン(同104.0%)となっている。
鶏肉需給表(令和4年10月27日公表)によると、9月の出回り量は国産134.6千トン(前年比97.7%)、輸入品47.5千トン(同96.8%)と合計で182.1千トン(同97.5%)となっている。
10月以降の国産在庫については、競合する輸入鶏肉の高騰等から引き合いが強く、クリスマスの需要期に向けて輸入量が増加する時期となるが、米国産は鳥インフルエンザやコロナの影響により不安定な輸入状況、ブラジル産は前年の輸入量が多く、前年を下回る見通しと予想している。
しかしながら、国内の鳥インフルエンザの急速な広がりによる影響が年末年始の状況を大幅に変える可能性が高くなってきている。
11月25日現在で国内の防疫措置対象が、11都道府県17事例(20農場3施設)で約289万羽となっている。
この疾病による、羽数の減少が、国内相場に影響を与えており、卵の相場高騰にもつながっている。
2023年も、疾病との戦いで、大きな影響を受けることが予想されるので、高くても輸入を増やさなくてはならなくなる。
値段で販売するのではなく、「価値」を販売する
円安のニュースを見て驚かれた方も多いと思うが、日本の物価は先進国の中でも極めて安い。
追い打ちをかけるように、円安となっているため、こぞって外国人観光客が日本へ来ているのが現実である。
高級ブランドバッグを日本で購入する方が、自国で購入するよりも、航空券やホテル代を加えても安くなるという、それくらい日本の物価は安い。
海外の畜産品を販売する商社やメーカーは、他のどの国よりも安く売ってくださいと言う日本人よりも、高く買ってくれる外国へ商品を売っている。
これが日本の買い負けと呼ばれる現象である。
すでに商品を安く販売する時代ではなく、適正な価格で購入して適正な価格で販売しなくてはならない現実が来ているのである。
値上げをすれば良いかというと、今までの安い商品を見てきた日本人には、単純な値上げでは消費者は離れてしまう。
購入したいという気持ちをカバーできるだけの価値を商品に付加した、付加価値提案が必要となっている。
一時期よりは物量も価格も落ち着いてきた、「輸入牛タン」であるが、やはり価格は以前のように安く売ることは出来ない。
価格訴求のみで、商品も効率重視でシンプルに簡素化してきた企業は、徐々に値上がりする「牛タン」を、売価に転嫁して値上げをしたのではないだろうか。
値上がりする理由を原料が高くなったと説明したスタッフも多いのではないかと思う。
しかし、商品化に一手間加えて、ネギをいつもよりも多くトッピングして、魅力ある商品化にするだけで、100gあたり987円という和牛並みの価格でも販売できている企業もある。
商品には、消費者が購入したいという「価値」が加わっている。
最近の焼き肉店では、安い並タンやタン塩、厚切りタンなどに加えて、ネギを大量にトッピングした商品や、味付けネギを、牛タンを袋状にした中に詰め込んだ商品など工夫を凝らした商品などもある。
外食店は原価率(値入率ではなく)が30%というのも一般的であるため、量販店の倍以上の価格設定がされていても購入されているのである。
安く販売しなくても、十分に商売は成り立つ。
安く販売するのはディスカウントストアーで、スーパーマーケットは「価値」を商品に付けて販売してほしい。
ディスカウトストアーで行くか、スーパーマーケットで行くのかという指針を明確にしないと、スーパーマーケットは生き残れないときが来たようだ。
生肉の価格が安定しない中、売上の構成比が上がってきているのが「ローストビーフ」である。
2023年も、「ローストビーフ」の販売構成比は上がっていく。
「ローストビーフ」に取り組んでいないと、数パーセントという、目に見える数字が確保できなくなる。
生肉で売上が取りにくい、原価が高くなっている、仕入れが安定しない、など、色々とネガティブな要因があるが、食事で食べる食肉を販売している精肉には、生肉以外にも売るチャンスが多く残されていると捉えてほしい。
生肉を単品大量販売しなくても、売上も利益も確保出来る資源は、精肉には沢山ある。
「ローストビーフ」は「産地」や「グレード、部位別」だけでなく、「作り方、製法」に関してもバリエーションがかなり増えている。
以前のような、パサパサしたローストビーフは淘汰され、しっとりとプロが調理したホテルのローストビーフのような仕上がりになっている。
国産牛のモモ肉を低温調理するとしっとりと仕上がる。
加熱時間や温度は保健所や厚労省のルールに従い調理が必要であるが、そこをクリアすれば販売可能となる。
調理された商品は、生肉よりも価格を上げて販売することが出来る。
大量販売しなくても十分売上と利益を確保していくことが出来る。
スライスした「ローストビーフ」は、トレーに並べるが、内側に上げ底のカップを仕込むと立体陳列が可能になる。
外食店のバースデー焼肉などで用いられる方法である。
量販店でも取り入れることで、「肉ケーキ」のような商品を作ることが出来る。「ローストビーフソース、レホール(西洋わさび)」を高蓋トレーの内側にセットして販売する。
ちょっとした一工夫が、単なるトレーに盛られたローストビーフから、映える価値のある商品へと変化するのである。
過去と固定概念にとらわれない
世界の人口が80億人に増加する中、日本の人口は1億2500万人を割り込んできている。
高度成長期には、量販店は単品大量販売をして売上を伸ばしてきた。
しかし、人口が減少しており、その分胃袋の数は減っている。つまり販売出来る量は減っているのである。
新型コロナや鳥インフルエンザの影響で、生産や物流、物量が安定せず相場が高い方へ推移している。
しかし、同じ物量を販売しなければならない時代から、適正な量を適正な分だけ販売していくエシカル消費へ、世の中は軸足を向けている。
このタイミングで、適正な価格で必要分を販売するスタイルへ切り替えていくよう、企業の方針も変化させる必要があるのではないかと思う。
最近では、家庭での調理も減ってきており、惣菜やテイクアウトへの食のシフトが進んでいる。
精肉では、生肉販売も行なう一方で、「ミート惣菜」や「冷凍肉製品」などの売上が上がってきている。
そのため、売場構成を少し変化させるタイミングでもあることは否めない。
「生鮮惣菜」を強化することは、店の全体の「惣菜」を強くすることにもなる。
2023年は、「ローストビーフ」や「ミート惣菜」という新しいカテゴリーのアイテムを、大きく打ち出していく年になるはずだ。
世界情勢を鑑みても、以前のようにかなり安く商品が調達できる時代では無くなっているため、売り方そのものの転換期と捉えて、消費者が必要とする食材や、食生活を見直した、商品の品揃え、展開をしていきたいと思う。