3月に売込むこの商品
23年度が終わる3月、卒業シーズンとともに、新年度に向けた引っ越し、新たな生活が始まる重要な時期である。3月中旬までは店舗のある地域の学校行事のタイミングに合わせて、「ハレの日メニュー」を売場では展開する。
幼稚園や保育園の卒園式には、子どもの好きなから揚げ、ハンバーグなどミート惣菜での展開はいつもよりも華やかに行ないたい。
小学校以上の卒業式には、「ステーキ・焼肉」など提案していく。
下旬になると、引っ越しや新年度に向けた準備など、特に近隣に大学がある地域などは、新たに単身生活をスタートさせる学生も増えるため、新しく顧客となる若い客層をしっかりと取り込みたい。
新生活では、「朝食、お弁当、夕食」は手作りしたいと意気込んでいる生活者も少なくないため、3月の時点で、この店なら毎日買い物が出来ると思わせる工夫も必要となる。
今時の若者は、レシピはスマホで確認できるが、こんなメニューを作りたかった!という、きっかけ作りは店舗内で行なうことも多い。
若者が食べたくなるメニュー訴求を行ないながら、売場を作ると、マンネリを脱却出来る一つのきっかけになる。
【牛肉】
卒業シーズンにお祝いのステーキで提案する。
「サーロイン・ヒレステーキ」とともに、よりリーズナブルで購入しやすいバラ肉、中でもかいのみは脂肪も多くなく食べやすい部位として訴求したい。
豪州産穀物牛は比較的サシも入りやすく見た目も華やかになる傾向にある。
調達が可能であれば、アンガス牛など品種をこだわって販売するのも、
購入の動機につながる。かいのみは、比較的トリミングする部分も少なく、作業的にも効率的に行なうことが出来る部位である。
3cm厚程度の厚切りカットにすると、魅力ある商品となり、売場にもボリューム感をもたらしてくれる。
関連販売では、淡泊な赤身の味を引き立たせてくれるステーキソースやハーブ入りソルトなども展開し、簡単にステーキを食べることができるメニューとして訴求する。
春夏の焼きメニューのアイキャッチ商品として、国産牛を打ち出したハラミ、タンセットを販売する。
輸入牛ではなく国産牛という部分でしっかりと訴求する。
比較的仕入れが難しい部位であるが、事前に仕入れ先に数量限定でも紐付けしてもらっておけば、仕入れられないことはないので、計画的に商品を作っていきたい。
焼肉と言えば、タンとハラミというのが定番であるため、基本的にはセットにしない方が、買い上げ点数も上がりメリットが出る。
しかし、国産牛ハラミとタンの場合は、いずれも単価が高いため、セットにして、定額販売すると良い。
輸入牛とは異なり、岩塩や塩ごま油、柚子胡椒などで素材の味を堪能してもらいながら食べてもらいたいため、関連販売では、コト販促で、タレや定番のレモン汁ではなく、岩塩で食べる提案など、お店の独自性を生かした食べ方提案を行なうと良い。
【豚肉】
豚バラを8mm厚でスライスした「サムギョプサル用」を拡販する。
用途としては、サムギョプサルだけでなく、焼肉用やカットして中華料理にも使える。
あえて米国産豚バラをすることがポイント。国産豚バラ肉は、脂肪が白く、旨いというメリットがある一方で、脂肪のトリミングが米国産に比べると少なく、脂肪の比率が高い。
米国産ベリーは皮側の脂肪が国産よりもトリミングされており、また「シートベリー」はバラ山も除去されているため、規格が安定していて商品化しやすい。
見た目の印象で脂肪が少ないと手に取りやすいこと、トリミングする手間を減らす意味でも、米国産ベリーを使用すると良い。
添付ダレで、サムギョプサルのタレや塩だれなどをつけると、消費者は別途味付けするための調味料を準備する必要がなくなる。もちろん、自分好みの調理をしたい人には、タレなしで販売しても良い。
昨年からの新トレンドで、蒸しサムギョプサルというメニューが出てきている。
野菜と一緒に蒸した豚バラをサムギョプサルのように食べる食べ方であるが、余分な脂肪が蒸されたときに、野菜に染み渡り、お肉はヘルシーに、野菜は美味しく、余分な脂肪は流れ出るというメニューである。キムチやコチュジャンと一緒に食べることで、食欲増進となる一品である。ぜひ、トライしてもらいたい。
味付け商材で、ステーキ提案を強化していく。クロッドを10mm厚でスライスし、5cm幅にカットして、ステーキ用商材として商品化。
ガーリックソースを揉み込み、ガーリックチップを振りかけるだけでオペレーションが簡単なガーリックステーキ用商材が完成する。
トリミングとしては、10mm以上の脂肪が残っている場合は、5mmアンダーに除去していく。肩サンカク(クリ)部分の中央の太い筋は硬いので除去は必要である。
ミスジは、ミスジステーキとして、別の商品化を行なう。ミスジステーキは人気があり、高めの売価設定でも売れる。また、ミスジの分割は、難易度は高くないため、ぜひとも実施したい。
新商品開発のきっかけ
人口減少の並が精肉の商品化にも影響を及ぼし始めているのは肌身に感じていることと思う。
例えば、焼肉セットを毎年販売しているが、商品化できる従業員も減ってきており、徐々に中身や商品化が簡素化されつつある。
しかしながら、売上目標は前年を大きく上回ることや、新商品を毎月出さなければならないという、作ることを目標にしてしまっている企業も少なくない。
新商品を作る意味合いを考えることで、店オリジナルの商品を開発してもらいたいと思う。
新商品を作る目的として、以下のことが考えられる。
- 顧客の利便性向上
焼肉セットは、顧客にとって食材の選択や組み合わせの手間を省き、簡単で便利な焼肉体験をすることが出来る。肉の種類やカット、調味料、付け合わせなどがセットに含まれていることで、消費者は手軽に焼肉を楽しむことができる。 - 商品の魅力向上
焼肉セットは、商品のバリエーションやアレンジの一環として、精肉部門における販売促進に寄与すると考えられる。消費者が様々な肉の種類や調味料を一つのセットで手に入れることで、新しい味わいや食べ方を発見する楽しみが生まれる。 - セット価格での販売促進
セット商品は通常、個別に購入するよりもお得な価格設定になる。
また、余剰部位をセットに入れることで、在庫回転数も上がり、販売側にも大きなメリットがある。焼肉セットを通じて、消費者はお手頃な価格で多様な品目を入手できるため、購買促進の効果が期待される。 - 季節やイベントに合わせた提案
季節やイベントに焦点を当てた焼肉セットを提案することで、季節感を持たすことが出来、需要を喚起できる。バーベキューシーズンが到来する春先から、イベントやテーマに合わせて、限定の焼肉セットなどを販売することで、マンネリを防ぐことが可能となる。
消費者にとって、購入する楽しみ、季節のイベントに合わせたカット、部位の組み合わせなど、オリジナリティを出すことで、このお店でしか買えない商品を作ることが出来るため、他店の真似をすることから、一歩先に進んだ商品化にも取り組んでもらいたい。
また、精肉としては、人員が限られた中で、売上と利益を確保していかなくてはならない。
そのため、オペレーションを含めた効率的な商品化が必要となる。
国産牛豚焼肉セットを既存品とこだわり部位で魅力的にして販売する。
既存の焼肉セットで、ほとんどの店舗で牛豚焼肉セットを販売している。豚肉が入る理由は値入率の確保である。
牛肉を入れなくては、焼肉の魅力が出ないため、牛肉をセットアイテムの中に入れる。部位をどうするか考えたときに、豚肉では焼肉に使用するバラと肩ロースというのが定番で、牛肉は国産牛肩やモモ、バラのほか、輸入牛ショートプレートなどを使用するというパターンもある。
ここで、一つ加えたいアイテムが、隠し包丁やひと手間加えた焼肉である。
最近では、スリット入りの冷凍焼肉なども業務用で展開されているので、そちらを使用するのもよい。
通常の焼肉に付加価値提案できるアイテムを一つ入れることで、より魅力的な商品となる。特に厚みや形状が異なるアイテムであるとより見た目にもわかりやすく、付加価値が付きやすい。
国産牛バラを商品化したときに分割できる中落ちを、商品化の延長でサイコロ状にカットして一アイテムとして入れるだけでも良い。
商品化の延長線上でできる焼肉セットはオペレーション上でも無理な負担なく、商品を製造することができる。
それでも商品化が難しい場合は、一部をスリット入り冷凍アイテムを入れるなど工夫することで、お店オリジナルのキットを製造することが可能となる。
LTVを重視した売り場作り
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)という言葉がマーケティング業界の中で注目されている。
もともとの意味合いとしては、顧客がサービスを利用している期間に、どれくらいの利益をもたらしてくれるかを示す指標である。
長期間継続して購入してくれる、リピートしてくれる顧客ほど、LTVが高い、ということになる。
現在、SM市場は飽和状態で、成熟した市場と考えられるため、新規顧客を獲得することが困難な状況である。
マーケティングの1:5の法則という法則があり、新規顧客獲得には、既存顧客の5倍のコストが必要である。
そのため、既存顧客をいかに頻度よくリピートしてくれるように工夫するか、魅力的な商品作り、売場作りをするかがカギとなってくるのである。
LTVが高い企業の特徴としては、「顧客ロイヤルティ」が高い企業ほど、LTVが高くなる傾向にあるため、常に顧客が魅力を感じてくれてお店のファンになってくれているかが大切になる。
今の精肉売場を客観的に見てみると、多くの企業が効率を求めるあまり、30年前40年前と同じ、システムトレーにお肉が並んだ商品を売場に並べているだけという印象がある。
以前とは異なり、商品の原料にこだわりや、ブランディングなどでPB商品なども作られているが、消費者が求めているものになっているかどうかは、棚の上に置いた状態であると言わざるを得ない。
高度席長期のころと比べると、日本の世帯のうちのほとんどが共働き、単身世帯も3割で環境は大きく異なっている。
内食で料理をしている割合は30年前40年前と大きく異なっている状況で、売場は進化していないと思うと、まったくLTVを高くする行動が行われていないと言わざるを得ない。
特に、ディスカウントストアよりもさらに安いドラッグストアの生鮮食品進出により、価格勝負には勝ち目がないと考えられるため、売場作りや商品化に力を入れなければならないことは、言うまでもない。
ディスカウントストア、ドラッグストアにできないこととは、ミート惣菜やお店オリジナルの商品化などがあるが、量販店にも人がいなくなっているため、こだわった商品化に着手できないという現実も理解できる。
しかし、量販店精肉が限られた人員の中でやらなければならないことは、「他店にない商品をつくる」ということである。競合店も人がいないのは同じである。
しかし、並べるだけの人員しかいない店舗とはことなり、多少なりとも商品化をすることが出来るスタッフがいる。
メニューの提案、ちょっとした包丁の技術と商品化を1品でも2品でも行うだけで、ディスカウント店やドラッグストアにできない商品が出来る。これがLTVを上げるカギとなる。
精肉で、楽しい買い物体験をする!
商品を並べるのが仕事ではなく、今日何食べようかな?あ、これやってみよっ!と思わせる売場作りが出来るのが、量販店精肉である。
豚ロース1本をスライスする作業から、豚ローススライスを活用したミルフィーユチーズ巻き焼き、野菜豚肉巻のレンジ蒸し、揚げ豚のマリネなど様々なメニューを打ち出して、豚肉を食べたくさせる売場作りをして、競合とは違う訴求でLTVを上げていきたいと思う。
長期顧客を囲い込む大切な3月
3月は異動や新生活に向けた準備でバタバタしている。そんな中、新たな気持ちで売場作りをして、競合や異業種にも負けない商品展開で、リピート客をしっかりと確保していくように心がけたい。新生活が始まる3月に生活者の心を鷲掴みすることが出来れば、長期的に購入につながる。まさにLTVにつながる大切な時期である。毎日同じように時間は流れているが、顔ぶれが大きく変わるのが3月である。
丁寧な商品作りと丁寧な売場作りがとても大切で、今の生活者が何を求めていて、どれくらいの調理時間があり、どれくらいのがっつりしたもの(あっさりしたもの)を食べたいのか、それを知るのは現場である売場に答えがある。地域に密着した生活者の購買行動をよく観察して、よく売れるもの、いつも残っているもの、これは地域によって大きく異なるため、いつもよりも長時間売場に立って研究をしてもらいたい。