精肉部門の基礎知識
総務省家計調査の2016年5月現在のデータを参照すると、2人以上世帯で全体消費支出28万1千円に対して食料費が7万5千円、うち肉類に関しては7,390円の支出となっている。
つまり1日約250円程度お肉に対してお金を使っているということである。
地域や季節によって上下するものの、おおよその目安になる金額である。
では、スーパーマーケット内での精肉の構成比は、日本スーパーマーケット協会平成28年5月55社平均で、食料品が全体の84.4%、そのうち畜産が10.4%となっている。
水産8.1%、惣菜9.6%に比べて高い構成比であり、スーパーの生鮮部門で重要な役割を果たしている。
生鮮肉の売り場アイテム数は一般的に90アイテムと言われているが、ここ最近ミート惣菜や簡便商品の品揃えが増えていることから、アッパーの量販店では100~120アイテム程度は品揃えがある。
また、荒利益(粗利益)率は約34%~36%で包材費等を抜くと24%~25%程度となる。
蓋付きトレーや高級トレーなどを使っている場合は、20%~24%とさらに低くなる。
精肉部門は、大分類で分けると生鮮肉と加工肉に分けられ、生鮮肉の中の中分類ではミート惣菜(生食や即食等)、牛肉、豚肉、鶏肉、挽肉に分けられる。
さらに小分類で各カテゴリに分類されるが、ここでは生鮮肉の中分類を紹介する。
生鮮肉
中分類 |
主な商品群と特徴 | 売上高構成比
粗利益率 |
ミート惣菜 |
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売上高構成比
3% 荒利益率 45%
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牛肉 |
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売上高構成比
31% 荒利益率 20% |
豚肉 |
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売上高構成比
41% 荒利益率 35% |
鶏肉 |
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売上高構成比
21% 荒利益率 40% |
挽肉 | ミートボールに使用する牛挽肉、餃子に使う豚挽肉、鍋用鶏つみれに使用する鶏挽肉、ハンバーグに使う牛豚合挽肉など、メニュー用途により畜種が変わる。 | 売上高構成比
4% 荒利益率 35% |
加工品のカテゴリでは、ソーセージ、ハム、ベーコン、焼き豚ブロック、生ハム、ハンバーグなど、メーカーが製造する商品が多く並ぶ。
最近では銘柄豚を使用したハムやベーコン、海外から輸入したパルマハムなどもアッパー商品として品揃えする場合も多い。
食材提供から食事提供に
精肉の売場は以前からシステムトレーに入った“食材”であるカット・スライスしたお肉を販売してきた。
「牛スライス肉、豚切落し、鶏切身」は、幅広いメニューに使用することが出来るため、家庭で料理をする消費者には使い勝手の良い商品であった。お料理教室が流行し、「●●用のお肉はどれですか?」と言う質問が増え、ラベル標記次のように変更した。
「牛スライス肉」の表示を「牛すき焼き用」、「豚薄切り肉」を「豚しゃぶしゃぶ用」、「鶏もも切身」を「鶏モモ切身水炊き用」とメニュー用途をあえて記載するように変化してきたのである。
しかし、今では家で料理をしない世代が増え、家に包丁がない世帯も少なからず存在するようになってきている。このような世代に、“食材”であるお肉を提供しても、使い方がわかりにくく、より簡便性の高い「Ready to Cook」商品、即食である「Ready to Eat」などのコンビニエンスな商品に焦点を当てる必要がある。
“食事”メニューの提案は今の精肉売場にはなくてはならないものとなっている。
「牛と野菜のごろごろ焼き」はオーブン調理または、フライパンで焼くだけの簡便商品である。同じような商品でレンジ調理商品も重要な役割を担っている。家で味付けをすることなく、焼くだけで料理が完成するため、包丁がなくても良い。
このような商品の製造は、アウトパックやセントラルキッチンで大量生産されることが多く、店舗での製造は少ない。店舗で製造する場合は、カット野菜と業務用のたれを絡ませて販売する。
店舗であまり製造しない理由は、カット野菜を仕入れると値入率が低くなることや、鮮度管理が難しくなるからである。セントラルキッチンで製造すると、在庫管理もしやすいためである。
以前は個食用として、簡便商品を製造していたが、現在は3~4人前用の大パックが売れ筋となっている。
「岩手県産純和赤鶏チキンカツ」は、惣菜コーナーではなく“ミート惣菜”での販売。
ライブ感のある店内調理を行ない、揚げたてのチキンカツを精肉として提供している。
チキンカツの他にも唐揚げやとんかつ、メンチカツ、コロッケ、手羽餃子などもお肉屋さんの惣菜ならではのアイテムが展開される。惣菜の商品とは違い、原料がお肉屋さんというイメージから、鮮度感のある商品となる。
今後、店内調理のミート惣菜の売上はさらに高くなることが予想され、その分人件費も高くなり、より高度な調理技術が求められるようになると思われる。
精肉売場最前線
精肉と言えば、多段ケースにシステムトレーで綺麗に縦陳列された売場作りが一般的であった。しかし、多段冷蔵ケースに入れることのできない、ミート惣菜や熟成肉などのドライエイジングの枝庫などが対面ケースで飾られるようになり、ハード面での変更を余儀なくされ、現在の新店舗は直線的な売場ではなく、各売場がテーマ性を持った売場作りとなってきている。
低多段ケースの揚げ物コーナーの前では、常に従業員が立ち、フライヤーで揚げ物を揚げている。揚げたてのとんかつや唐揚げは消費者の要望で都度調理可能で、惣菜コーナーの商品よりも、揚げたての鮮度抜群の商品を購入することが出来る。
店舗のキッチンステーションは多くの量販店で見受けられるようになったが、専属従業員が張り付いて一日立って商品を案内することも少なく、開店休業状態の場合が多い。
精肉だけのコンシェルジュコーナーで、対面ケースと横並びになっていると、従業員は精肉担当者で、毎日の販売する商品を真剣に売らないといけない。
そのため、以前のように開店休業となることなく、常に対面コーナーや売場を意識して商品を案内することが出来る。
即食コーナーで構成比が高くなっているのが「ローストビーフ」。
単なる輸入牛ローストビーフだけではなく、「国産牛、和牛、牛みすじローストビーフ」など一度食べてみたくなるローストビーフが展開されている。その他にも、ローストポークやローストラムなども展開してバリエーションを増やすと、選択肢が増えてミートオードブルの売場が充実する。
街の精肉店やデパ地下で目にする精肉の対面売場が人気を集めている。
以前は、都度お店の人と話をしなくてはならないことが懸念事項であったが、現在は必要な商品を必要な分だけ注文できることと、鮮度感があることから人気再燃の売場となっている。
また、お肉屋さんのコロッケやメンチカツ、とんかつなども生パン粉を使うとさくっと美味しいため人気アイテムになることは、昔とかわらずお肉屋さんのポイントとなる。
トレーゴミが出ないことや、持ち帰りにかさ張らないことなどから、ノントレー売場が徐々に広がっている。新しいノントレー用の機械を導入しないといけないため、すぐにノントレー売場が広がるわけではないが、一度導入すると多くの商品がノントレーとなる。
牛豚鶏に次ぐ第四の畜種として「ラム肉(仔羊)」を売り込む。
ラムラックや肩ジンギスカン用だけでなく、肩ロースステーキ、モモステーキ、焼肉用も陳列し、充実した売場作りが売上に貢献するようになる。縦陳列で売場を確保して展開する。
お肉が消費者に届くまで
お肉が店舗に届くまでのルートはどうなっているのか簡単に説明する。
[農場から加工場]
農場(牧場や豚舎、鶏舎など)で育てられた生体は、と畜されるため処理工場へ運搬される。
処理工場でと畜されたお肉は加工場で、部位ごとに分けられボックスミートになる。
銘柄牛肉などは生体やと畜された枝肉を芝浦市場に持ち込むなどして、市場に流れる場合もある。輸入牛肉の場合、海外の企業が農場から加工場まで一貫して行っていることが多く、そのお肉を商社やメーカーが購入して日本に輸入する仕組みになっている。
[加工場からメーカー(卸業者)]
加工場でボックスミートになったお肉は直接店舗に配送される場合もまれにあるが、多くの場合は一度メーカーなどを経由する。
その理由は、物流コストである。
大きなメーカーになればなるほど、物流拠点や物流網が発達しているため、大量輸送することが多く1つの商品にかかる物流費が下がるのである。
輸入肉の場合は、メーカーに届く前に輸出・輸入業者が飛行機や船を使い日本に商品が届く。人が海外旅行するとパスポートでチェックされるように、お肉も通関、動物検疫のチェックが入る。
そのため、飛行機の場合でも数日のブランクが発生するのである。
船の場合、オーストラリアやアメリカから(西海岸と東海岸では大きく変わるが)3週間~4週間近く船旅をして商品は日本に届く。南米から来る鶏肉は40日程度かけて船便で届く。
したがって、輸入肉は急に大量に必要になっても用意が出来ない。
ある程度の余力はメーカーも持っているものの、日付管理を考えると輸入肉は余裕を持って数か月前に発注しなければならないことは、サルでもわかる話である。
[メーカーから店舗]
メーカーや問屋に集められたお肉は、販社などを通して各店へ配送される。最近では、一度各企業のTC(トランスファーセンター)やPC(プロセスセンター)に各メーカーから商品が集められ各店舗にピッキングされ配送することも多い。
店舗に届いた商品は、各店でステーキや焼肉、スライスなど商品化され店頭に並ぶのである。
精肉の近未来
基本的には、昔からお肉が製造されお店に届くまでの中身は変わっていない。
しかし、消費者が食材を求めていた時代から、食事を楽しむ時代へと変化してきた。
そこで、変化をしなくてはならないのが、店舗での訴求の仕方である。
単にスライスしたお肉を販売するのではなく、食事を楽しんでいただくために、何を提供しなくてはならないのかを考える必要が出てきた。
その一環として、ライブ感のあるミート惣菜販売という手法が出てきた。
食事を楽しんでもらうために、揚げたて、出来立てのメニューを楽しんでもらう商品を販売する。今後も、即食メニューやワンクックの商品がどんどん開発されていくことと思う。
つまり、お肉を仕入れて売る時代から、調理して売る、仕込みや下処理をして売る時代へと変わってきたのである。精肉の従業員も、舌がしっかりとしていないと販売には苦労する時代である。むしろ、商品に幅が出て商品化は以前よりも楽しいと思う。
この変化を楽しむことがまず精肉の一歩前進することになるのではないかと思う。