輸入肉マーケットの最新動向と今後の展望

量販の精肉を運営する上で、売上・利益を大きく牽引してきた輸入肉に関して、近年世界の中の日本の立ち位置が変わってきたため、大きく外部環境が変化してきている。
「安い日本」と言われる様に、良くも悪くも新型コロナの影響は大きくあったものの、物価なども大きな変化を受けること無く、日本は今までやってきたが、二歩に害の多くの国々では、賃金が大幅に上昇すると共に、物価も大きく上昇してきている。
一見すると、日本は生活しやすくてラッキーに思えるのであるが、世界の生産者目線で物事を考えると、より高く購入してくれる国に輸出し、売上や利益を上げたいと考えるのが一般的である。
市場としてみると、日本は昔よりも魅力がなくなってきており、他の国への輸出が増え、日本が買い負けし、日本への輸入価格が上昇していく要因になっている。

最近の食肉をめぐる状況

出典:公益財団法人日本食肉流通センター「最近の食肉をめぐる状況(2023年2月報告)」

https://www.piif.jmtc.or.jp/wp-content/uploads/2023/02/最近の食肉をめぐる状況2023年2月報告).pdf

総務省「家計調査」の購入数量をみると、牛肉に関しては、2021年から指数が100を割っているが、2022年特に牛肉の落ち込みが大きいことが伺える。牛肉の消費者離れが顕著に表れていると言える。

輸入牛肉マーケットシェア(2022年)

輸入牛肉マーケットシェア(2022年)
輸入牛肉マーケットシェア(2022年)

2022年輸入牛肉のマーケットは、米国が4割、豪州が4割で全体の8割を占めている。
近年主流のグレインフェッドは価格高騰し、エシカル志向なども牽引したこともあり、グラスフェッドや豪州で打ち出しているパスチャーフェッドなど話題となっている。
しかしながら、米国産牛肉も高騰していることから、高価格のプライムグレードの品揃えは各メーカー在庫を持たなくなっており、「チョイス」や「ブラックアンガス」を中心に販売する方向にある。
同様に、豪州産牛肉のロンググレインやミドルグレインクラスの品質の良い牛肉も、仕入れソースが安定しなことで、定番で販売する企業が減り、ショートグレイン中心に展開しているのが現実である。

輸入牛肉 輸入量

輸入牛肉 輸入量

出典:農畜産業振興機構

https://www.alic.go.jp/r-nyugyo/raku02_000009.html

輸入牛肉の輸入量は、チルドに関しては、店頭価格の上昇による国内需要の低下などから、かなり前年を下回る予想が出ている。
一方、冷凍牛肉に関しては、国内需要は高くないが、昨年例年よりも輸入量が相場の関係で少なかったため、今年は前年を大きく上回る予想である。
現状も続く相場の高騰であるが、今年の夏はさらなる高騰が予想されるため、相場上昇する前のやや多めの在庫確保、先々の発注も早めに行なっておくことが望ましい。
特に焼き材が、昨年同様に不足する。

輸入豚肉 輸入量

出典:農畜産業振興機構

https://www.alic.go.jp/r-nyugyo/raku02_000009.html

豚肉に関しても為替の影響や現地相場の高止まりから、輸入量は大きく下回ることが予想される。
チルドに関しては、前年の90%を下回るほどの輸入量になると予想されているため、牛肉同様に、計画的な仕入れや付加価値をつけた提案が鍵となることが予想される。
冷凍に関しては、欧州からの安定的な供給により輸入量が増える。量販店でも冷凍豚肉は、一般的に使われるようになってきているため、消費者ニーズに合わせた提案を考えていく必要がある。

「羊肉」に関しても、牛豚と同様に為替の影響だけで無く、現地相場の高騰も難しい課題である。
相場が高いために、ラムショルダーやラムランプなどとスペアリブなど、比較的安価に販売出来る部位が主流になっている。最近では、ラムラックは高騰の影響で、品揃えをやめてしまっている企業もある。

輸入肉拡販のための3つのポイント

例年通りの展開で、夏場の繁忙期を迎えると、おそらく価格上昇で売り上げが上がっているようにみえるが、利益や、収益という点では、現実的に厳しいと言わざるを得ない。
少なからず利益が圧迫する状況になることは火を見るより明らかである。
見た目上、特売などを仕掛けて売上を伸ばすことは常套手段として行なわれるが、利益を確保するのは困難と考えられる。
その理由としては、先にも述べたとおり、世界的に畜肉の相場が上がっていることが原因であり、確実にそのあおりを受けることになるからだ。
仕入れをしている、メーカーや商社もすでに利益を詰めて販売をしており、在庫数量も負担にならないよう減らしているため、仕入れ原価を下げる交渉は、今の環境では、商品原料の供給が安定しなくなり、結果として売り場展開できなくなる可能性が高い。

輸入肉拡販のための今年のポイントは、

  1. 新アイテム
  2. リプライス
  3. シンプルオペレーション

の3点である。

  1. 新アイテム
    既存商品で売上を伸ばしていくためには、売価を上げるか販売点数を伸ばすかのどちらかである。
    そのどちらも厳しい環境下のため、新しい商品を投入して、売り上げ確保を狙う。

  2. リプライス
    既存品の売価を見直すタイミングである。
    今までは、端数価格効果で98円や598円など、大台割れ価格の設定を行ってきたが、値上げをせざるを得ない環境では、割安感をさらに出すために、(値上げはするものの)「頑張れるところまで頑張りました」という、リアル単価設定を見せるリプライスをおこなうことも一つである。
    また、既存商品の部位を使用した新アイテムを投入することで、同じ部位のリプライスを行なうことが出来る。
    焼肉用を鉄板焼き用にして見せ方を変えることや、小袋のタレや調味料を添付して、事実上の値上げをわかりにくくする工夫もその一つである

  3. シンプルオペレーション
    特に今注目すべきポイントが、シンプルオペレーションである。
    量販店のバックヤードで作業を行なう従業員が激減しているため、和牛など高単価な付加価値をつけなければならないアイテム以外では、できるだけ省力化をして作業もシンプルにすることが鍵となる。
    社員だけでなく、パート社員なども含めて商品化出来るところまでシンプルにすることで、見えないコストパフォーマンスを上げていく工夫が必要である

米国産牛タン タン元厚切りカット 658円/100g
米国産牛タン タン元厚切りカット 658円/100g

牛タンの中でもタン元のみを使用した厚切りカットを商品化する。
タン元から「リンガルフォッサ(牛タンのくぼみ部分)」付近までは比較的サシが入った原料が増えているため、タン元の価格を少し上げて商品化する。
通常の牛タンスライスを558円で販売している場合、100g100円高く価格設定して販売する。
商品も既存原料で作ることが出来、シンプルな商品化で、新商品、リプライス、シンプルオペレーションで、新しく商品投入することが出来る。

既存品を活用した、「売れるシンプルオペレーション商品」

今まで行なっていた作業の延長で出来る、シンプルオペレーションの商品化が、この夏の輸入肉を攻略するポイントである。
既存商品の商品化を変えるだけで、新商品が生まれ、新たな価格設定を自然に行なうことが出来る。

【輸入牛肉】

夏場の肝となる輸入牛肉は、焼肉商材に課題が出てくることは、仕入れをしているバイヤーであればすでに対策を取り始めているのではないかと思う。
今まで売上の核となっていた、「牛タン、ハラミ、カルビ」などの主力アイテムを無理せず販売に力を入れるために、新商品や提案方法を変えて売上につなげる必要がある。

米国産牛タンスライス焼肉用(ネギ塩カップ付き) 800円/P
米国産牛タンスライス焼肉用(ネギ塩カップ付き) 800円/P

牛タンのタン中からタン先にかけては、定番の牛タンスライスにして商品化を行なうが、焼肉屋でも注文されるネギタン塩をイメージして、カップに入れたネギ塩をセッティングして商品化を行なう。
商品化は丸皿にスライスした牛タンを並べ、あらかじめカップにセッティングしていたネギ塩を中心に配置するだけで、通常のオペレーションから大きく離れること無く商品化することが出来る。
中央のネギ塩は、別のトッピングに変更することで、作業性は同じで商品の水平展開することも可能である。

【輸入豚肉】

米国産四元豚肩ロース冷しゃぶ用 180円/100g
米国産四元豚肩ロース冷しゃぶ用 180円/100g

輸入豚肉の相場が上がっているため、商品化を変えて展開する。
輸入豚肉の薄切りは一般的に切り落しになることが多いが、価格と共に商品価値を高めていく必要がある。
「冷しゃぶ用」に関しても、「切り落しタイプ」から「スライスタイプ」に変更して展開。特に品種やサシのよく見えるブランドに関しては、切り落しではなく、盤面のサシを見えるように商品化することがポイントとなる。
商品化する時点でのポイントとしては、包丁を使用して、綺麗に肩を立たせることである。
イベリコやデュロックなどの品種が異なる豚肉に関しても同様に綺麗な商品化が売上につながる。
近年、冷凍豚肉の需要が高まっているため、フローズンアイテムの拡充も合わせて行なっていく必要がある。

【輸入羊肉】

豪州産ラム肩ジンギスカン用 780円/280g
豪州産ラム肩ジンギスカン用 780円/280g

定着したラム肉のジンギスカン用をリバイバルで販売する。
羊肉も他畜種同様に相場の影響が大きく出ており、相場が上がっている。
パック単価を下げようと、ラムショルダーの切り落しなどを展開している店舗が増えているが、コアな顧客しかつかめていない野が現状である。
ラム肉のジンギスカンダレを添付して、ジンギスカンらしい銀の丸皿で展開すると印象がグッと変わってくる。
商品化は切り落しタイプのものよりも、やや厚めの3~5mmスライスで、きちんと面を綺麗に魅せる商品化で展開。
スライス取りすることで、面が広くなり、少ない量目で大きなトレーの商品化を映えるように盛ることが出来る。

輸入肉ミートは惣菜化で地位確立

輸入肉を販売する上で、ポイントとなるカテゴリの一つがミート惣菜である。
店内加工や外部委託製造など、各社製造場所は、仕組みやシステムによって異なるが、使用する原料に関しては、国産だけで無く輸入肉も使用することで、バリエーションと利益確保に貢献出来る。

米国産ブラックアンガス牛ローストビーフ 480円/P
米国産ブラックアンガス牛ローストビーフ 480円/P

ブラックアンガス牛を使用したローストビーフを、クリーミー仕立てのマッシュポテトに乗せて、サラダ感覚で食べることが出来る一品。
ローストビーフを食べるターゲットを、「ワインを楽しむ大人」に絞ることで、欧風な食シーンを再現する。お肉は、輸入牛であれば何でも良いというところから、品種をブラックアンガスにすることで、付加価値と美味しさを兼ね備えた商品にすることが出来る。
添付ソースに関しては、トリュフ風味のものを使用すると、より一層海外でワインを楽しむ雰囲気を演出することが出来るようになる。

ミート惣菜は調理済みだから、何の原料を使用してもわからないという、安直な話ではない。
ミート惣菜は、精肉と異なり、そのまま口にする商品のため、精肉よりも香りや食感、見た目も重要な要素となってくる。
特に、ローストビーフは食感と香りが直説的に口の中に広がるアイテムのため、原料、味付け、スライス厚、添付のたれにもこだわって商品化を行なう必要がある。
外部工場で製造する場合は、バイヤーの判断一つで大きく売上に反映することになる。食感や味は、地域特性が強く出るため、企業のエリアが広いほど、何種類かのお肉とタレを用意して、地域のパート社員にも試食をしてもらい商品を決定することをオススメする。
別の地域の成功情報を、単純に取り入れても思ったよりも売上につながりにくいのは、その地域の特性が左右しているためであると認識し、各エリアにカスタマイズして商品展開を行なってもらいたい。

大きく変化する外部環境に適応する

新型コロナウイルスに始まり、ロシアのウクライナ侵攻による穀物やガス、電気の高騰。日本国内の鳥インフルエンザ、開発途上国の急速な成長など、近年今までに無かったほどの外部環境の変化が、同時進行で起こっている。
この外部環境の変化は、私たちがコントロール出来ない、まさに外部環境であり、これを踏まえた上で商売を行なわなくてはならない。

精肉業界の外部環境で最も影響するのが、食肉の相場変動である。
ロシアのウクライナ侵攻による影響は極めて大きく、世界の穀物の流通が変わったために、畜肉の穀物飼料に影響した。
この影響を受けて相場が大きく変わってしまったと言っても過言ではない。
また、ガスや電気のインフラ問題は、身近には家庭の電気代が高くなったなど、ニュースでも話題になっているが、家庭の電気代が変わるほど、電気代が大きく変化しているため、生産現場、物流コスト、冷蔵冷凍庫の電気代は、何もしなくても何億円のコスト高になっているのである。

毎日、同じ行動パターンで生活をしていると、全く実感が湧かないかもしれないが、バイヤーはメーカーや商社からの値上げ交渉が毎日行なわれていることと思う。
説明される機会も少ないかもしれないが、このような、外部環境が大きく変化している今、納品単価を下げる交渉よりも、“いかにこの環境で売るか”と言うことを、考えていくことが先決ではないかと思う。

日本の海外からの仕入れ力は弱まっている。これは事実である。

日本以外の国の物価は高く(所得も上昇しているが)、日本よりも他国にお肉を販売した方が海外メーカーは儲かるからである。
今、私たちがやらなければならないことは、他国にない商品力、提案力をフル活用して、買いたくなる価値を売場でどう演出し、購買につなげるかである。
限られた人数で、限られた時間で作業を行なうには、既存商品を上手く活用して、あらたな魅力ある商品を作っていくことから始めなくてはならない。
ちょっとした一工夫が、次の売上につながるため、日々創意工夫して展開を行なってほしい。